歪な光景と園館の必要性と。

動物園

本記事は、以前執筆した「ヒグマの見方が変わった話」の続編です。直接の続編と言うか、この記事の最後に書いたことについて言及する内容です。

「ヒグマの見方が変わった話」の最後、私はこう記しました。

本記事は、自分の中での「ヒグマへの偏見が消えた」ということが主題の記事でしたが、もうひとつ私の考えを変えたとある出来事が起こりました。正確には、ヒグマ含め今回の遠征で出会った生き物全てを観察して感じたことです。

この私の考えを変えた出来事を記していきます。

知床で出会った”歪な”キツネ

本記事のアイキャッチ画像を見た時点で拒否反応を覚えた生き物好きの方もいると思います。申し訳ございません。

車にエサをねだるキタキツネ。ドライバーは車を停めてスマホで撮影したり、手を振っていた。

こちらは知床で見たキタキツネです。

完全に人慣れしており、車に向かって餌をねだっていました。ドライバーや後部座席の人々も、かわいいと言わんばかりに動画を撮ったり、手を振っていました。

知床では野生動物への餌やりが問題となっています。

知床では、道路を車で走っていると野生動物に遭遇することがあります。そして、残念なことに出会った動物に食べ物を与えている人の姿を目にすることもあります。動物への餌付けは、その動物にとっても、私たち人間にとっても良い結果をもたらすことはありません。なぜ餌付けがいけないのか、ここで考えてみましょう。

 野生動物にとって人からの餌付けは、食べ物を探す手間が省け、自然界にはない高カロリーなものを手に入れられる魅力的なものです。一度人間の食べ物を口にした動物たちは、自分で餌を探すことをしなくなり、人へ平気で近づくようになるなど行動が変化します。人間の食べ物は、野生動物たちの普段の食生活では得られない脂質などを多く含んでいるため、消化不良を起こし体調を崩してしまい病気などを発症し、死に至る場合もあります。また野生動物はさまざまな人獣共通の病気を持っています。近づくということはこれらの病気をもらってしまうリスクを負います。こうしたことからも一人一人が餌付けやゴミの投棄をしないよう心がけましょう。野生動物の観察は、一定の距離が必要です。

野生動物への餌やり禁止 株式会社知床ネイチャーオフィス

このキタキツネはまさに、餌付けされたことで人や車に馴れてしまったのでしょう。

この写真をよく見てほしいのですが、この先の道路は右に曲がる急カーブとなっています。道も広いため、対向車は結構なスピードでカーブへ突っ込んできます。しかも、カーブは木々で遮られていて、曲がった先は死角です。

つまり、このままこのキツネが車の周りをウロウロしてしまうと、死角から来た車に轢かれてしまいます。これはまずい。そして前の車も動く様子は一切なく、道路のど真ん中に停車していつまでもキツネをかわいがっています。どんどん後ろに車が溜まっていき、軽い渋滞が出来ていました。キツネも危ないし、シンプルに邪魔です。抜かそうにも、こちらから見てもカーブの先が死角なため、追い越すことは出来ません。

カーブの先は死角。

ドライバーの友人はクラクションを数回鳴らし、やっとのことで前の車は走り始めました。結構威圧的に鳴らしまくったため、前の車は飛ぶように去っていきました。

クラクションで多少キツネも威嚇されたかと思いきや、今度は我々の車にフレンドリーに接近してきました。冗談じゃない。我々も足早に車を発進させ、キツネが車に轢かれないことを祈りながら去っていきました。

さっきまでエゾヒグマを見て興奮していた気持ちが一気に冷めてしまいました。

畑にいた普通のキツネ

こちらも北海道某所(場所忘れた)で見たキタキツネです。一瞬で逃げ去っていったので、顔は撮れず終いでした。悔しいと思いながらも、野生動物としてはこれが本来の姿です。

このキツネと、人馴れしたキツネ、そしてエゾヒグマ…

ここまでを観察して、私はあることを考えました。

自然体験 > 水族館・動物園

水族館時代、そして最近も移動水族館組織を立ち上げましたが、水族館などの園館と自然環境を比較して、強く思うことがあります。

水族館(動物園)における体験は、本物の自然体験には決して及ばないというものです。この根本は今でも変わっていません。園館のスタッフたちは、一般客になんとか自然環境や生き物たちを理解してもらおうと躍起になりますが、そこで得た体験は、本物の自然体験で得られるものには遠く及ばないのです。

本物の自然の偉大さ、迫力は想像を絶するものです。今でも自然観察を続ける理由のひとつはそれです。自然でなければ得られない栄養素を摂りに行っているといってもいいでしょう。

そのためかつての私は、水族館で活動する際「如何にして本物の自然へ出かける一般客を増やせるか」に固執していました。ウチ(水族館)では、どう足掻いても本物には勝てない。であれば、本物の自然環境へ興味を持ってもらえる、そして現地に赴く人を増やす。それが自分の使命だと思っていました。

ところが、今回のエゾヒグマ・キタキツネ観察を通して、その考えが変わっていきました。

観察圧という怪物

以前の記事で書いた、エゾヒグマの観察時の話です。観察を終えた後、気づくと私たちの周りにはたくさんの人集りができていました。橋の上からカメラを向ける我々を見て、他の観光客もエゾヒグマがいることに気がついたようです。人集りは収まることなく、どんどん増えていきました。

私が立ち止まって観察することで、エゾヒグマに観察圧をかけていたのです。

これは冒頭のキタキツネにおいても同様です。私は餌付けされたキタキツネの異常さを批判しながら、自らもしっかりキタキツネの写真を確保していました。

撮影の途中からは「この歪さを写真に残さないと」とも考えていましたが、最初にキタキツネを見つけたときは、その姿を撮影することしか考えていませんでした。状況としては、既に前の車が私たちの前に停まっており、こちらも停車せざるを得ませんでした。その状況下で目の前にキタキツネがいたら、自然と撮影してしまうのは仕方のないことです。

とはいえ、後になってから、私は自分の行動の矛盾に気づきました。歪な光景であると思いながらも、自らも野生動物を観察することで、他の人々を呼び寄せ、ヒトと野生動物の距離感がバグる原因を作っているのではないか、と。

「それは…考えすぎだよ」と、心の中でフォローしてくださる皆様、ありがとうございます。確かに直接の原因は餌付けされていることであり、私が撮影したことではありません。エゾヒグマに至っては別に餌付けされていたわけではありません。考えすぎではあります。しかし、生き物好きの性、水族館人の本能として、どうしても引っかかってしまいました。

こうした観察圧の積み重ねにより、もしかしたらそのうちヒトと野生動物とが距離感を誤った悲しい事件が起きてしまうのではないかと思うと、ゾッとしました。私が直接罪に問われることはなくとも、自分はそれに加担していたのではないか。そう思いました。

自然人のその先に

この問題をさらに考えていくと、私がかつて水族館で行おうとしていた「自然を訪れる人を増やす」も、ミスリードだったのではないかと思います。

仮に水族館客の全てが海や川に興味を持ち、自然環境へ赴いたら、その自然にかかる負荷・観察圧は相当なものになります。水族館客の全員が自然に敬意を払って、ルールを守って、自然に負荷をかけないでいることは難しいでしょう。ただ自然を観察しているだけで、負荷になることは十分にあります。

「本物の自然でないと、わからないことがある」が事実であると同時に、「全員が本物の自然へ行ってしまうことは、自然へ負荷が大きくかかる」もまた事実だと思います。

園館の必要性

我々がどんなに頑張っても本物の自然へ赴いてくれる人なんていうのは、恐らく水族館客の1%にも満たないと思うので、杞憂でしかないのかもしれません。

でも、一人の生き物好き・自然好きとしては、自分が行っていた行動には矛盾を感じざるを得ません。他の人はどうであれ、自分はもう、こうした行為に加担しないようにしたい。そう考え始めました。

そのため、例え事実として「自然体験 >園館の体験」だとしても、園館で疑似的に自然体験ができるというのは、意味のあることだと思いました。近年、なるべく各園館のネットワーク内だけで生き物を繁殖させる(ブリーディングローン)ことで、自然からの新規個体の搬入や搾取を無くそうという働きも活発になってきています。

「種の保存」などの役割もありますが、私的には「余計な負荷を自然にかけずに、疑似自然体験を人々に提供し続けるため」に生き物の繁殖戦略は重要になってくるのではないかと考えています。

自分にできること

つい最近、私は移動水族館組織Mobilis Aquarium(MA)を立ち上げました。

MAの理念の一つに、動物福祉に配慮するというのがあります。これには、イベントの度に自然から新規個体を集めて搬入することなく、MA内で状態よく飼育管理・繁殖を行って、同じ個体で繰り返し展示するという目標も込められています。

これにより、MAは移動水族館でありながら「余計な負荷を自然にかけずに、疑似自然体験を人々に提供し続ける」ことを達成していきたいのです。

移動水族館としてやっていくからには、本記事で書いたような問題は、避けては通れません。

本記事を書いたからといって、他の園館さんやスタッフさんの考えにどうこういうつもりは全くありません。園館さんによって、多様なアプローチがあって全然いいと思います。しかし、せめて自分の運営する組織では、こうした問題にはしっかり向き合っていきたいと考えています。だからこそ、MA活動においては、なるべくミスリードを招く普及活動を避け、動物福祉に配慮することで、結果的に自然への負荷も減らしていきたいと思います。


そうはいいつつ、中々難しい問題であることも事実です。

安全な場所からエゾヒグマやキタキツネを観察できるとわかれば、観察したいと思うのが当然でしょう。この当然に、正面から「お前らはどうかしてる」とは言い切れません。

そして、「自然体験 >園館の体験」というのも、恐らく変わりません。果たして、園館における体験は、自然体験と同等のものになれるのか否か。本当の意味で、自然のために園館にできることはなんなのか。

まだ明確な答えは出せませんが、MAで自分にできることは少しづつやっていきたいなと、そう思いました。

難しい話になってしまって、ゴメンナサイ。

次はもっと楽しい記事を書いていきます。笑

では、また。

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