面白すぎるぞヒメマス!

淡水関連

エゾヒグマ・オショロコマ・ミヤベイワナに次ぐ、北海道遠征編第四弾です。

本記事ではヒメマスという魚について記していきます。ヒメマスの探索記自体は、私がライターをさせていただいているサカナトにて既に公開済です。そのため本記事では、体験記に加え、北海道から帰還後、私なりに調べたヒメマスという魚の詳細・面白さについて記していきます。サカナトの記事も興味あるよ!という優しい方はこちらをどうぞ↓

湖で生きることを選択した<ヒメマス> 朝の屈斜路湖に現れた神々しい魚を観察してみた - サカナト
ヒメマスという魚を知っていますか。ベニザケという海へ降りるサケの仲間がいますが、ヒメマスはその陸封型(海へ降り

ヒメマスとは

ベニザケの陸封型

ヒメマス(撮影:北の大地の水族館)

ヒメマスはベニザケという魚の陸封型にあたります。陸封型とは、本来海に下って成長する魚が、環境の変化などによって海に下らず、生涯を淡水域(川や湖)で過ごすようになったものです。主にサケ科魚類を語るときによく登場する用語な気がします。

よく勘違いされますが、「陸封型=亜種」ではありません。亜種は生息分布が広い種においてよく見られる、地理的に隔離された地域集団において、形態的(体の大きさや色彩など)に識別可能な程度の差異が認められるもののことです。元の種と差異はあれど、互いに生殖可能であるため、別種にはなりません

一方で陸封型は、元々は海と淡水を行き来する生活環(回遊性)を持っていた魚の一部が、地形変動やその他の理由により地理的に隔離され、一生を河川や湖沼などの淡水域のみで過ごすようになった集団のことです。これは生活の「型」の違いであり、分類学的な単位(種や亜種)ではありません

原産は阿寒湖だが・・・

日本におけるヒメマスの原産地は北海道の阿寒湖と周辺であるといわれています。これらの湖周辺でヒメマスはカバチェッポアイヌ語で「小さな薄い魚」)と呼ばれていました。チミケップ湖も原産と言われていますが、その確たる証拠は薄いという意見もあります。

阿寒湖は15~10万年前に噴火で形成されたカルデラに水が溜まったときにはじまり、それから雄阿寒岳と雌阿寒岳の火山活動によって前阿寒湖へと姿を変え、現在の阿寒湖になったのは約1万2000年前と考えられています。

ヒメマス原産地と言われる阿寒湖

阿寒湖の水は阿寒湖から湖口を出て、100km足らずで太平洋に出ます。したがって、カバチェッポは北太平洋のベニザケが、古ければ15~10万年前、あるいは新しければ1万2000年前より後に阿寒湖に来たことになります。

後にヒメマスは阿寒湖から支笏湖へ移植され、支笏湖から和井内貞行によって十和田湖に移植されました。私が今回ヒメマスを観察した屈斜路湖も、移植された個体群になります。

現在日本各地で見られるヒメマスのほとんどは、支笏湖から移植された個体群にあたります。もちろん阿寒湖の原産地でヒメマスを観察したいという気持ちもありますが、様々な制約により、一般人が阿寒湖でヒメマスを観察することは非常に難しいです。場所は違えど、北の大地でヒメマスを観察できるという点では、屈斜路湖が最善の選択肢です。

エゾヒグマ・オショロなどの観察も共にした仲間たちと一緒に、屈斜路湖へ向かいます。

北海道編の他記事はこちら↓

壮観な屈斜路湖とヒメマス

より良い写真を撮るために重要になるのは、端的に言えば「光=明るさ」です。

明るい場所で撮影できるか否かが鍵を握ります。屈斜路湖へ向かう前日に天気予報を確認すると、午前中のみ晴れ予報でした。つまり、朝一で屈斜路湖に乗り込み、水深の浅い場所でヒメマスを探して撮影するのがベスト!

日照時間を考慮した、陽光作戦を展開することになりそうです。

ヒメマスポイントへ

屈斜路湖当日。北海道遠征としては最終日でした。

普段の仕事柄、朝早いのは慣れているため、特に苦にすることもなくベッドを飛び出せました。朝ごはん?そんな時間はねぇやい!荷物をまとめてホテルをチェックアウトし、爆速で屈斜路湖の湖畔へ向かいます。

湖畔へ到着すると、既に何台か車が停まっていました。このポイントは基本、釣り人に人気のポイントのようです。なるべく釣り人を避けるため、奥のポイントへ向かおうとしましたが、道路の途中にこんな掲示が。

生息地の具体的な公開を防ぐため、一部モザイク加工

ワーオ。こわいこわい。端的に言えば、この先に行ったら撃たれます() 特に僕の様なガタイのいい熊みてえなヤツは・・・

車を停められる路肩は少なかったですが、朝早く湖畔を訪れたのが功を奏したのか、余裕で駐車できました。このあと、矢継ぎ早に車が押し寄せ、どんどん路肩は埋まっていきました。朝早く来てよかったでぇ。

浅瀬のカバチェッポ

屈斜路湖の湖畔は、それはそれは壮観でした。

スマホでテキトーに撮っただけでこれ。てか、なぜか一眼で撮った風景写真が一枚もないというこのアホっぷり。壮観は壮観ですが、そんなことよりもヒメマスを!という気持ちが抑えられなかったのです。

そしてそんなヒメマスは、探すまでもありませんでした。

スティーブン・スピルバーグの映画「JAWS」のホホジロザメの背びれのように見えますが、ヒメマスです。水深たった数十センチの浅瀬を、ヒメマスの群れがグルグルと泳ぎ続けていました。

ヒメマスでもホラー映画やパニック映画とか撮れたりすんのかな?とか思いましたが、そんなこと考えている場合じゃない!陽光が差し込んでいるうちに、ヒメマスをカメラに収めなければ!

神々しい魚

正直、ヒメマス観察の体験談自体は、サカナトに載せた記事と内容が被るため、ここでは写真中心に紹介します。

もう、とにかくその神々しさがすごい魚でした。記事こそ書きましたが、絵にも描けない美しさとはこのことであると感じる光景です。写真でも、その魅力は伝わり切らないです。

ヒメマスのオスです。仲良く並んでいるように見えますが、これでも静かに相手の動向を観察し、繁殖における争いを繰り広げています。ときどき激しく衝突し、水面を荒立たせることもあります。

こちらはメスです。オスの鼻曲がりやセッパリがないため、容易に見分けられます。

ちなみにサケ属の属名「oncorhynchus」は「鏃(やじり)のような嘴(くちばし)」の意味だそうです。

GoPro動画から切り抜き

少し深場の方が透明度が高く、観察しやすい環境でした。ヒメマスは産卵期近くなると群れで湖畔に集まり、繁殖行動を開始するそうです。特別ヒトを恐れることもなく、むしろ「なぁんだ?てめぇらは・・・」といわんばかりの態度で接近してきました。

ズームしていません。近づいてもいません。向こうから来ました。

オショロコマを観察したときは「わあ!ニンゲンだ!みんなー!とびかかれー!」という感じで近づいてきましたが、ヒメマスは堂々としており、その威厳のある姿に思わず息を呑みます。

鰭を全開にしてアピール(?) ごちそうさまです。

他の屈斜路湖のいきものたち

屈斜路湖には当然、ヒメマス以外の生き物もたくさんいます。

ウチダザリガニ

こちらはウチダザリガニ。北米大陸原産で、日本においては外来種です。その影響力は計り知れないほど脅威ですが、ここでは紹介しません。是非ご自身で調べてみてください。

やべぇ外来種であることは理解しつつ、その姿はメッチャかっこいいです。男のコはいつまでもこういうメカメカしい生きものが好きなものです。関東でもよく見るアメリカザリガニとはまた違うその姿に妙に惹きつけられます。

エゾウグイ

エゾウグイ。遠くから無理やり撮ったので、画質は….ゴニョゴニョ

こちらは”たぶん”エゾウグイです。たぶんというのは、単に見分け方に自信がないからです。

エゾウグイは本州のウグイと違って、吻が尖っているといいます。

ウグイ(撮影場所:相模川ふれあい科学館 アクアリウムさがみはら)
確かに、吻は丸く、尖っていない。

写真を見る限りは尖っているので、エゾウグイかなあと思って、エゾウグイとして載せました。ちげえよ!って思った方がいましたら、優しく優しく教えてください。見かけによらず、僕はナイーブなので・・・

オオハクチョウ

オオハクチョウ。なんだかんだ、野生のオオハクチョウは初めて見た気がします。

オオハクチョウは、冬になると繁殖地である極東ロシアから日本へ飛来してきます。極東ロシアは寒い時期になると、ハクチョウのエサである植物や昆虫などが雪や氷に覆われて食物が獲れなくなるため、食べ物を求め、オホーツク海を越えて日本へやってくるそうです。

本州で各地の湖でハクチョウを見たことある人がいるかと思いますが、あれはほとんどコブハクチョウという外来種です。

オオハクチョウのほかに、コハクチョウという白鳥もいます。オオハクチョウはコハクチョウに比べ、クチバシの黄色い部分が広く、その違いで見分けられるようです。写真を見る限りは、この白鳥もクチバシの黄色い部分が広いため、オオハクチョウではないかと思います。

バレエなどでもよく白鳥はテーマにされますが、そのイメージそのままの優雅な鳥でした。鳴き声もイメージ通りで、こんなに思った通りの優雅な鳥がいるのか・・・と思いました。

ヒメマスの多様性

ヒメマスの姿

元からある程度、図鑑を調べたり論文を読んだりして、ヒメマスの存在自体は知っていました。水族館でも見たことはありました。

しかし、水族館で見たヒメマスは婚姻色が出る前の、いわば普通のヒメマスです。当時ニワカだった僕は、その時見たヒメマスの姿と、今回見たような婚姻色の出たヒメマスの姿、降海型であるベニザケの区別がはっきりとついていませんでした。

以前水族館で見たヒメマス(撮影場所:富士湧水の里水族館)

上記の写真と、その前の屈斜路湖ヒメマスの写真を見比べてみてください。まさか、初見でこれが同じ魚だなんて気づく人はいないでしょう。

ヒメマスの婚姻色

「絶滅魚クニマスの発見」( 中坊徹次 著 新潮社)によると、ヒメマスは餌状況が悪くなると、体色が黒ずむ傾向があるそうです。確かに、十和田湖など他の地域のヒメマスの体色を見比べてみると、明らかに黒ずんだヒメマスが多いです。

屈斜路湖のヒメマスは、水面から見てもその紅色が際立つほどです。しかし、完全人工管理下でたらふく餌を食わせた養殖ヒメマスも、その体色は黒ずんでいます。餌の量ではなく、餌の質も関係していると考えられます。

ヒメマス含め、サケ科魚類の赤い婚姻色は「アスタキサンチン」という物質によるものです。これが食物連鎖でサケ科魚類に蓄積し、婚姻色にも表れるといいます。

サケの身がオレンジ色の理由も、アスタキサンチンによるものです。面白いことに、サケは産卵時期になると、そのアスタキサンチンがタマゴや体色に移動するため、身はオレンジ色から白色の身に変わります。そのため、遡上時期のサケはあまりおいしくないとも言います。

話がそれましたが、ヒメマスの婚姻色もアスタキサンチンによるもので、その由来は餌生物です。アスタキサンチンを含む餌の有無で、ヒメマスの婚姻色の色も決まってくるのかもしれません。

実は多様性が低いヒメマス

ベニザケの陸封型であること、地域によって婚姻色が異なることなど、非常に多様性に富んでいると思いがちですが、実はヒメマスの遺伝的多様性は非常に低いことが知られています。

「エッ!?こんなに多様な姿なのに、俺たちのバリエーションって、無いの!?」

屈斜路湖含め、日本各地の湖におけるヒメマスの遺伝子解析が既にされており、その結果、日本のヒメマスは遺伝的多様性が極めて低いことがわかっています。

冒頭にも書いた通り、日本の各湖におけるヒメマスはほとんどが支笏湖からの移入個体群です。1913~1942年にウルモベツ湖からベニザケのタマゴが供給されていますが、遺伝子解析により、その時に供給されたベニザケの痕跡はほぼなくなっていたそうです。逆に、支笏湖由来の痕跡は残っていました。

日本ヒメマスの遺伝的多様性が低いという事は、彼らの血縁関係は比較的濃く、支笏湖からの移植個体・増殖個体の影響が強く出ているという事です。

遺伝的多様性が低いと、何かしらの感染症がヒメマス内で蔓延した際、抵抗できる遺伝子・抗体を持っていないため、あっという間に絶滅に追い込まれてしまう可能性があります。

ヒメマスの先祖返り

ヒメマスの特徴として、僕がもっとも「おもしれえ~~~!!!」と思ったのは、先祖返りです。

1907年に、ある湖から貯水池に降下途中のヒメマスが発見されました。”遡上”ではなく、”降下”です。すなわち、このヒメマスは「海に下ろうとしていた」のです。このヒメマスには、サケの仲間が海へ下る際に現れる特徴である「スモルト化」がおきていました。

このヒメマスも支笏湖由来であり、ベニザケが長い年月をかけて陸封されたものに由来します。そんな完全陸封ヒメマスが、降海できる可能性があるという事です。

これはヒメマスが、陸封される前の姿、すなわちベニザケに先祖返りが出来るという証拠になります。その後、支笏湖由来のヒメマスの0歳魚が海に放流され、少数ではあるものの、ベニザケとなって回帰が確認されたのです。現在でも北海道安平川水系では、この支笏湖由来のベニザケの産卵回帰が行われているようです。

つまりヒメマスは、陸封型の魚として初期の段階にあるといえます。2010年に、山梨県の西湖で絶滅していたはずの魚が発見された!として、一躍話題になった「クニマス」も、ベニザケが陸封されて独自に進化した魚です。しかし、クニマスはもはやベニザケとは別種であるといえるくらいの形態的特徴、生態をしています。また、クニマスは完全に淡水適応した魚で、海水適応力は完全に失っています。これに対し、ヒメマスは非常にベニザケに近い特徴を現在でも保持し続けており、ベニザケに先祖返りできるくらいの海水適応力を持っています。

ヒメマスを調べるうえで、ベニザケ・クニマスとの関係は避けても通れないものです。そのため、調べる過程でやはり、ベニザケやクニマスにも興味が湧いてきました。クニマスに関しては、僕の住む関東からもそれほど遠くはない山梨県の西湖におり、「クニマス展示館」という展示施設まであります。基本深場に生息するクニマスを直接観察することは困難なため、いつかこの「クニマス展示館」に足を運んでみたいと思います。

ヒメマス・クニマス・そしてベニザケ・・・

他のサケ科魚類やオショロコマ等の観察でも、「また見に行きたい!」という気持ちが湧きましたが、この日ヒメマスに関しては他の魚よりも、その気持ちがより一層強いかもしれません。

もちろん、一度見たきりの観察では何もわからないというのもありますが、それとは別に、各湖における他のヒメマスを見てみたいという気持ちがあります。上記のように、遺伝的多様性が低い割には、その体色は湖ごとに千差万別です。この矛盾したような特徴が、たまらなく魅力に感じます。

また、ヒメマスを調べていると、同時に調べざるを得ない、クニマス、そしてベニザケにも興味が湧いてきました。クニマスはまだしも、ベニザケに関しては恐らくカナダ等の北アメリカまで行かないと、満足する観察は難しいでしょう。

ベニザケや他のサケの仲間が遡上する様子はカナダで「サーモン・ラン」と呼ばれ、特にベニザケはその真っ赤な婚姻色で川が染まる、異様な光景になるそうです。陸封前のヒメマスや、もっと珍しいクニマスは見れるのに、大元のベニザケは一番観察難易度が高いのです。

本記事でも、ヒメマスと比較するためにベニザケの写真を用いたかったのですが、野生ではもちろん、水族館でもベニザケを見たことはありません。当然、写真もありません。ぐぬぬ・・・という想いがあるため、やはりベニザケ観察はマストだなと、思い至ったわけです。

まずは近いうちに、クニマス展示館と西湖は訪れてみようかなと思います。そのうえで、死ぬまでに、なるべく元気なうちに、カナダなどのサーモンランを観察したい・・・と漠然と考えております。

いつか、本ブログにベニザケの雄姿をお届けする日がくる・・・・かもしれません。

それでは、また。

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