自然から遠ざかる人々
近年、私たちの生活から自然との距離は遠ざかり、自然や生き物への正しい知識や理解を持つ機会が減少しています。その結果、無意識に環境破壊に加担してしまったり、環境問題を目の前にしても行動できない人が増えているのではないでしょうか。
しかし人間は本来自然に関心を持ちやすい存在であると最近の研究で明らかになりつつあります。

ヒトは本来自然に敏感な生き物
鳥取環境大学・小林朋道先生の研究によれば、ヒトの脳には「生き物を専門に認識する領域」があり、私たちは自然や生き物に興味を持ちやすい構造を備えているといいます。我々の脳は、かつてヒトが営んでいた狩猟採集社会から殆ど進化していないため、「生き物」を正しく認知・理解し、獲物の狩猟や天敵からの逃亡が可能になる方向へ進化していたのです。
すなわち、本来ヒトは自然離れが起こるような生き物ではなく、むしろ自然や生き物を理解しやすい、興味を持ちやすい脳を持っているといえます。

正しく自然と触れ合う機会があれば、自然離れ・環境破壊を食い止められるのではないか。そう考えることができます。
(『先生、脳のなかで自然が叫んでいます![鳥取環境大学]の森の人間動物行動学』(著:小林朋道/築地書館)『ヒトの脳にはクセがある―動物行動学的人間論―』(著:小林朋道/新潮社)に詳しい)。
センス・オブ・ワンダーを育む
『沈黙の春』で有名なレイチェル・カーソンは「センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見はる感性)」の大切さを説いています。

生き物の不思議な生態や命の雄大さに心を奪われる瞬間(センス・オブ・ワンダー)こそが、自然を理解し、守ろうとする出発点になります。
そしてこのセンス・オブ・ワンダーも漠然とした感覚ではなく、ヒトの脳が生き物を専門に正しく認知した、ヒトの生態行動です。
これらを健全に育めば、環境破壊を止め、環境保全に繋がる人々を増やすことができるはずです。この「センス・オブ・ワンダー」を育むことが、私たちの活動の根幹です。
Mobilis Aquariumという名前に込めた想い
「Mobilis」は、ジュール・ヴェルヌ著『海底二万里』に登場する言葉「MOBILIS IN MOBILI」からとりました。
この言葉は、「動きの中の動き」という意ですが、私たちにとっての解釈は「絶えず変化する世界で、常に動き続ける」です。
変わり続ける社会の中で、自分たちも学び、成長し、動き続けること。
環境破壊の進む自然に対して、立ち止まらずに行動し続けること。
移「動」水族館として、人々に自然や生き物とふれあう機会を提供し続けること。
「Mobilis Aquarium」という名前には、そんな想いが込められています。
生き物にやさしい移動水族館であるために
また私たちは、生き物の命を尊重し、動物福祉を最優先にした移動水族館でありたいと考えています。

たとえば一般的な水族館や移動水族館では、タッチプールに展示されるアカエイの尻尾の毒トゲを安全のために切り落とすことがあります。アカエイの命に関わることはないとされますが、私たちはそれを「本当に生き物にやさしい方法なのか」と疑問に感じています。
もし生き物を傷つけてまで展示する必要があるのなら、その種は展示すべきではない。そうした強い想いから、私たちは移動水族館組織でありながら、生き物への配慮を最大限考慮した運営・展示を行っていきたいと考えています。
生き物の存在そのものが「センス・オブ・ワンダー」を生み出します。
だからこそ、無理に触れさせるのではなく、生き物が自然な姿を保ったまま、安心して人と出会える環境をつくることが大切だと考えます。
自然から生き物を採集することは、少なからず環境に負荷を与える行為です。「環境に負荷をかけている」という意識を常に持ち、命を無駄にせず、最大限尊重すること。
それがMobilis Aquariumのもうひとつの理念です。
